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2008年1月24日 (木)

生姜牛乳プリン再び

 どうも生姜牛乳プリンの記事に対して検索でやってくる人が思った以上にいるようなので、もうちょっと細かく生姜牛乳プリンについて書いてみる。以前別のサイトに投稿した記事にちょっと追記したバージョンである。少々長いが興味のある方はご覧いただきたい。私は特にこの辺の専門家というわけではなく、この記事はあちこちのサイトを調べまわった結果できたものでしかないので、いろいろと間違いがある可能性は多分にある。間違いはぜひ修正したいのでコメント欄あたりで指摘していただけるとありがたい。

A.生姜牛乳プリンの作り方概要

 生姜牛乳プリンの作り方の手順としては以下のようになる。

  1. 生姜をすりおろして汁を絞る
  2. 容器に生姜汁を入れる
  3. 牛乳に好みの量の砂糖をまぜて加熱
  4. 熱した牛乳を生姜汁の入った容器に上から勢い良く入れる
  5. しばらく放置すると固まってできあがり。そのままでも冷やしてもおいしい。

たったこれだけだが、諸々の条件がきちんと揃わないと固まらない。適当に作っていると、固まったり固まらなかったりと、結構出来がまちまちになってしまうお菓子である。

B.固まる仕組み

 牛乳中のたんぱく質と生姜中のショウガプロテアーゼというたんぱく質分解酵素の働きで、いったんたんぱく質が分解し、その後にゲル化して固まると思われる。

C.詳しい仕組みの予想

 生姜牛乳プリンの英語名は「Ginger Milk Curd」である。Curdというのはチーズ作りの際の中間性生物である「カード」と同じものを指すと思われるので、基本的にはチーズ作りの際のカード生成に似た機構になると予想される。チーズ作りの際の凝集機構については[参考文献2]に詳しいが、簡単に言うと以下のような感じである。

  • 牛乳のタンパク質の約8割を占めるカゼインは、α、βカゼインとその周囲を取り巻くκカゼインで大きなコロイド粒子を作っている。
  • α、βカゼインはCa(カルシウム)と結合して凝集する性質があるが、通常はCaと結合しないκカゼインがコロイド粒子の周囲を囲んでいるので凝集しない。
  • タンパク質分解酵素でκカゼインが切断され、α、βカゼインがCaと反応してミセル同士が凝集。ホエーや脂肪を抱き込みながら凝集するのでゲル化したように見える。この状態が生姜牛乳プリンだと思われる。

D.諸条件に関する検討

 固まるかどうかの条件としては、牛乳中のタンパク質を変性させないこと、たんぱく質分解酵素が最も活性を示す温度領域で反応を進ませることがキーとなると思われる。

D1.牛乳内のたんぱく質の変性温度

 牛乳中のたんぱく質は主にカゼインとホエーたんぱく質であるが、カゼインの変性温度は100℃以上と非常に高い[参考文献1]。ホエーたんぱく質は80℃あたりから変性が始まる。なので、牛乳を熱する場合は80℃を越さないようにする必要がある。なお、80℃近くから加熱臭がするようになるが、これはホエーたんぱく質の一部が分解して硫化水素を生じるせいである[参考文献1]。またチーズ作りの際も過度の過熱は凝集を妨げるとある[参考文献2]

D2.生姜の産地と分量

 これまで70回ほど試作を行っているが、使用した生姜は高知県産、熊本県産、宮崎県産の根生姜である。これらの産地による出来上がりの差は確認できなかった。生姜の種類については[参考文献4]を参照のこと。なお、私が試作した際は生姜の皮はむいてからすりおろしている。汁を絞った際に沈殿したでんぷんは使用していない(積極的に分離はしなかったが、混ぜなおすこともしなかった)。それでも特に問題なく作ることができている。

 生姜汁の分量は100mlの牛乳に対して3~9gで条件を振って試作を行ったが、5~8g程度が適当と思われる。9gくらいだと味がきつく、3~4gは固まり方が弱い感触である。重量比にすると牛乳は100mlあたり約103gなので、4.8~7.8%程度となる。

D3.牛乳の種類と成分量

 試作では7社11品種の成分無調整牛乳を使用している。これらの牛乳100mlに対して、たんぱく質は3.1~3.5g、脂質は3.6~4.25gの幅があったが、できあがりに特に差は見られなかった。成分無調整であれば、特に牛乳の銘柄や成分は気にしなくても良さそうである。

D4.反応温度

 ショウガプロテアーゼの活性に最適な温度は約60℃と言われている[参考文献5]。従って、容器内で反応させるためにはこの温度帯を通過する必要がある。ただし、温度が高すぎると酵素が不活性化してしまう。ショウガプロテアーゼの不活温度は調査しきれなかったが、構造の似ていると思われるキウイの酵素(アクチニジン)の不活温度は約70℃である[参考文献6]。従って、容器に注ぎ込む際の温度は70℃を切っていたほうが安全と思われる。

 また気をつけなくてはならないのは、冷たい容器に注ぎ込むことで温度低下が起こる点である。試作の際は室温のガラス容器を用いたが、注ぎ込んだ時点で約3℃程度の温度低下が観測された。容器の初期温度と熱容量、気温に依存するが、ほぼ数℃の温度低下を見込み、注ぎ込んだ後の温度が60℃より少し高いくらいになるようにすべきである。特に冬場は容器の温度が低いので少々温度が高めの牛乳を注ぎ込んだ方が良いと思われる。

 試作では加熱の段階で62~83℃まで温度を振ってみた。注ぎ込む直前の時点で70℃を越えたものは失敗の確率が高い。62℃はぎりぎり緩く固まった。安全を見て64~68℃あたりが最適点であると思われる。

D5.冷凍生姜は有効か?

 生姜は買ってきて冷蔵庫に入れて数日で風邪をひくと言われる。なので、保存する場合はすりおろして冷凍するのが推奨されている。生姜牛乳プリンを作る場合、この冷凍した生姜でちゃんと作れるのかどうか試してみた。買ってきた生姜を全部すりおろし、半分を冷凍した。もう半分はすぐに生姜牛乳プリンを作るために使って、ちゃんとこの生姜で固まることを確認した。

 1週間後、冷凍から取り出して自然解凍した上で生姜汁を絞って、生姜牛乳プリンを作ってみた。結果、特に問題なく固まることを確認。すりおろした生姜の冷凍は生姜牛乳プリンを作るのに特に問題ないことが分かった。

E.まとめ

以上より、生姜牛乳プリン作成の最適条件は以下の通りと思われる。Wikipedia[参考文献7]の記載とほぼ同じであり、本条件の方が少々狭い。確実を期する場合はこの程度まで条件を絞った方が良いと思われる。なお、この条件下ではほとんどのケースで生姜牛乳プリン作成に成功した(ただし、例外有り)。

  • 牛乳を熱する際は80℃を越えないようにする。
  • 生姜汁の分量は100mlの牛乳に対して5%強を目安にすると良い。
  • 容器に注ぎ込む時の温度は70℃を越さない方が良い。
  • 64~68℃の牛乳を入れると、最適温度帯を通過して反応させやすい。
  • 容器が冷たい場合は上記温度の高い方にした方が成功しやすい。
  • 生姜の皮はむいて良い。沈殿したでんぷんはあまり気にしなくて良い。
  • すりおろして冷凍した生姜でも特に問題ない。
  • 牛乳の種類は成分無調整ならあまり気にしなくて良い。

F.その他

 残念なことに上記条件下でも今のところ100%成功にはいたっていない。今のところそういう場合は生姜が悪いのではないかと思っている。感触としては、作り方にこだわったような値段の高い生姜を使った際に失敗するケースが多いと思っている。

 あと、[参考文献10]にも生姜牛乳プリンについて書いてあるが、こちらでは生姜は皮ごとすりおろすと書いてある。皮ごとの方が固まりやすいかどうかはまだ確認していないのでこれは今後の課題である。

 また、酵素の名前が「ジンジベイン」と記載されている文献と「ショウガプロテアーゼ」と書かれている文献が見つかっている。多分どちらも同じものを指しているのだと思うが、まだこの辺も調査がきちんとできていない。さらにショウガプロテアーゼには「1」と「2」という2種類あるような記載も見かけるので、この辺はまだまだ探求が必要そうだ。

 最後に余談だが、香港の学生科学コンテストで2006年に優勝したグループがこの生姜牛乳プリンの成功条件を課題にしていた。このグループのプレゼンテーション資料もなかなか興味深い。(ただし英語)

G.参考文献一覧

[1]「牛乳・乳製品の実際知識 第4版」 東洋経済新報社 ISBN4-492-08350-2

[2]チーズ作りの解説サイト。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nakacchi/cheese.htm

[3]J-MilkのQAページ
http://www.j-milk.jp/library/faq/8d863s000000ouk7.html

[4]生姜の種類
http://www2.odn.ne.jp/shokuzai/A2003/Shouga.htm

[5]酵素の最適温度
http://www.agr.okayama-u.ac.jp/amqs/josiki/39-9608.html

[6]アクチニジン(キウイの酵素)
http://www1.ttv.ne.jp/~kiwi/actinidin-0.html

[7]Wikipedia(生姜牛乳プリン)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%9F%E5%A7%9C%E7%89%9B%E4%B9%B3%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%B3

[8]香港の学生科学コンテストページ(2006年)
http://www.hksspc.gov.hk/2006/html/eng/index_18_eng.htm

[9]香港の学生科学コンテストチャンピオンのプレゼンテーション資料
http://www.hksspc.gov.hk/ppt/2006/Ginger%20Milk%20Curd.pdf

[10]東京ガスの生姜牛乳プリンのページ
http://home.tokyo-gas.co.jp/shoku110/chie/568.html


最後に冷凍した生姜で問題なく固まった生姜牛乳プリンの画像をおまけに添付する。

___3

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コメント

たいへんな研究ですね。読んでよ~く分かりましたが、作るのが面倒だなぁ。
中華街でこれを出している店はありますか?

投稿: 酔華 | 2008年1月27日 (日) 07時56分

温度計が必要ですが、家で作るのも
慣れるとたいしたことないですよ。

中華街で食べるとなると、大珍樓の
宴会レポートで見た覚えがあります。

一人分とかは無理でしょうけど、
それなりの人数と予算を用意して、
お店の人と相応に親しければ作って
もらえるのではないでしょうか?
水牛の乳で、とかなるとまた大変でしょうけど。

投稿: 本須 | 2008年1月27日 (日) 09時23分

興味深く読ませて頂きましたが、気になる箇所が一点。
D3では牛乳について説明されている様ですが、見出しが「生姜」になっています。

投稿: 必須 | 2015年9月22日 (火) 22時45分

★必須さん

ご指摘ありがとうございます。誤植は直しておきました。

なお、蛋白質や乳脂肪分が牛乳よりかなり多い水牛の乳の場合は
牛乳と同じ条件では固まらないというレポートが2014年に出ています。
残念ながら、なぜそうなるのかという点は記事では触れられておらず、
まだまだ謎の多い品です。

【水牛の乳で作ったレポート】
http://80c.jp/lovers/20140526-283.html

投稿: 本須 | 2015年9月23日 (水) 08時09分

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