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2009年12月 8日 (火)

その記事は看過できない

中華街について書かれている記事を見つけた。あまりにもどうかな、と思われる内容なので取り上げてみる。

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(本記事中、文字の色づけは引用部分を含み、私によるものである)

件の記事毎日新聞社によるもので木村健二氏の署名入り記事である。この記者について検索してみると東京社会部の方のようだ。記事の題名は、「横浜中華街:新旧交代 3年で4割閉店 新店も次々開店」。タイトルの部分だけで早くも感覚的に引っ掛かりを感じる。ほんとにこの3年で4割も店舗が減っただろうか?

記事にはこうある。

過去3年間で約4割の料理店が閉店に追い込まれる一方、1980年代以降に来日した「新華僑」が次々と新店をオープン。

私はここ何年か、自分のホームページで横浜中華街の料理店についてマップとリストをメンテしている。その感覚からすると、4割という閉店はいくらなんでも多すぎだと思うのだ。

記事は続く、

老舗料理店の広報担当者は「今年は店の入れ替わりが倍増した」と話し、昨秋以降の不況で特に高級店が苦戦しているという。

高級店の苦戦は確かだろうが、今年の店の入れ替わりはほんとに倍増しただろうか?

続いてさらに詳しい数字が出てくる。具体的な数字が出てくるので、少し長いが引用する。

 桜美林大ビジネスマネジメント学群の菅原一孝教授らが横浜中華街にある店舗と業種を調査したところ、06年7月段階の店舗数は707店で、約34%の239店が中華料理店だった。同種の調査はほとんどなく、今年6月に中華料理店に絞って再調査したところ、前回より42店減の197店になっていた。うち52店は新しくオープンした店で、菅原教授は「中華料理をまともに食べたら5000円はかかる。店の減少は厳しい経済情勢を反映している」とみる。

記事はまだ続くが、ここまでで主要な数字は出揃った。検証すべき部分は以下の通り。

(1) 過去3年で約4割の料理店が閉店
(2) 2009年は店の入れ替わりが倍増
(3) 2006年7月時点で中華料理店が239店
(4) 2009年6月時点で42店舗減の197店
(5) うち52店が新しくオープンした店
(6) (42+52)/239=39.3%で4割閉店という計算

それでは私の手元の数字と比べてみよう。

2005年の1月から2006年の12月までの2年間の毎月について、その後3年間の閉店数をその時点の店舗数で割った割合を計算してみた。結果、2006年7月の20.57%が最高値で他の月はそれより下であった。これが(1)の40%近い値になるというのは疑わしい。従って(6)も棄却。

2008年の閉店数は20、開店は19である。2009年はまだ1ヶ月残しているが、現時点で閉店数が11、開店数が19。開店数については横ばい、閉店数に至っては半減である。露店の栗売りとか占い屋とか入れたらまた別かもしれないが、文脈から料理店について語っていると思われるので、(2)の記述も疑わしい。

2006年7月時点で中華料理店は手元の数字で209店である。記事の主張と30店舗も乖離がある。私の数字では、ちゃんぽん・ラーメン店を入れていない、横浜大世界を1店舗で計算している、チャイナスクエアの店舗を見逃すことが多い、という誤差要因があるが、それでも30店舗の乖離は信じがたい。従って(3)の239店舗という数字は疑わしい。

2009年6月時点で中華料理店は手元の数字で212店である。今度は記事の数字に比べてこちらの数字の方が15店舗も多い。シャッターが閉まって営業していない店舗を15店舗も営業したままと認識するというのは信じがたい。(4)もまた疑わしい。

2006年7月から2009年6月までの間に新規に開業した中華料理店は手元の数字では33店記事の52店とは19店舗もの差がある。この3年間に19店舗もの新規開業を見逃しっぱなしなどということがあるだろうか?誤差があっても2~3店舗くらいに収まっているはずである。(5)も疑わしい。

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以上、記事に出てくる数字は私からはすべて疑わしいという結果となった。悪い方に取れば、ンパクトのある数字を出すために、昔の方を多く今の方を少なくカウントするように数字を作っているのではないかという疑いすら出てくる。調査には誤差が避けられないとはいえ、私の手元の数字との乖離がいくらなんでも大きすぎる。

中華街の開店・閉店状況をウォッチしている方は読者の中にも何人かいることと思う。ぜひ自分の手持ちの数値と毎日新聞の記事とを比べてみていただきたい。私はこの記事の数字を極めて怪しいと思う。

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ところで、この記事の元データを提供したと思われる桜美林大の菅原一孝教授について調べてみると、大学のWebに紹介が出ている。どのような経歴と業績をお持ちの方かと見てみたのだが、主要業績は1996年の「横浜中華街探検」という本を著したこと、その約10年後である2007年に「日本食生活学会誌」に出した論文の「横浜中華街の歩み」であるようだ。中華街研究を主要業績として飯が食えるというのもなかなか興味を引かれることではある。

論文の方は学会誌ページで著者名で検索すると1件だけ引っかかるのでそこからPDFで全文読むことができる。読んでいて不思議に思ったのは、中華料理店の数の変遷が記されているのだが、2006年が250軒と記されていること、上記の2006年7月時点の239軒と11軒も乖離がある。私の手持ちの数値では、2006年は209~213軒で推移しており、前後半年以内で11軒も動くことはなかったはずである。この辺の数値の違いも大いに気になるところである。

あとは、「横浜中華街探検」だが、古い本だがあちこち探せばどこからか出てくるだろう。そのうち入手して、お正月あたりにでもじっくり読ませていただこうと思う。

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とにもかくにも、新聞記事を書いて飯を食っているプロならば、もう少しきちんと調査して記事を書いて欲しいものだと思う。得られたデータの裏も取らずに1ヶ所のソースだけで情報を垂れ流すようでは、プロとしてとても恥ずかしい。

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雑文」カテゴリの記事

コメント

最近の新聞記者は、ろくな取材をしていません。
電話一本で大きな記事を書いたりしています。
しかも、事前に机上調査などもせず、
いきなり初歩的なところから取材します。
TV番組のディレクターも同じです。
昔はこんなことなかったはずなのに……

投稿: 酔華 | 2009年12月 9日 (水) 06時01分

今頃発展会あたりも「何だよこの記事!」となっているのではないでしょうか。

今の時代、プロとアマの定義って何?と思います。

投稿: ふ゛り | 2009年12月 9日 (水) 07時37分

★酔華さん

多分、自分の立ち位置に頼り切って仕事をする人が多いのだと思います。
その立場に相応しいOUTPUTを出すべく努力して信用を維持するのではなく、
その立場をいかにおいしくしゃぶりつくして信用を失う前に逃げ切るか、
に注力する人が増えたのでしょう。

まあ、チャンピオンやら金メダルをネタに商売するような物です。
短期的にはおいしいでしょうが、実体の評判が広がるにつれて
不利になってゆくことでしょう。

新聞やテレビなどは悪影響が出始めた段階なのだと思います。
いくつかの企業は早晩事業が立ちゆかなくなるかもしれません。

私はもう新聞やテレビにお金を使いませんから、全く意に介しません。
自業自得だと思います。


★ぶりさん

発展会も、こういういい加減な記事を書く企業は出入り禁止にして
取材を受けないようにした方がいいでしょうね。
ここまで怪しげな数字を書き散らかされると迷惑だと思います。

プロは、それで飯を食っていればプロと言えると思いますが、
仕事の品質においてプロとアマの境界はわかりにくくなっていますね。
基本的に、個人が趣味の片手間に書いてタダでばらまいている
記事にも劣るものを書いているプロは、淘汰されても良いかと思います。

投稿: 本須 | 2009年12月 9日 (水) 23時35分

本日の読売新聞の一面 特集:食ショックには・・ 中華街の安いフカヒレは人造フカヒレだと、暴露してますねぇ・・・。

フカヒレ食べ放題の店のは、人造だろうとは思ってましたが・・・。

毎日新聞といい風評被害とか起こった場合、きちんと反論できるバックデータ、取材がなされてないと えらいことになりそうな予感もしますねぇ・・。

投稿: maruto082 | 2009年12月 9日 (水) 23時41分

★maruto082さん

そういや、近ごろフカヒレの証明書を店頭に張り出す店を見かけます。
証明書を出している会社は同じようですが。

ところで、人造品って本物と比べてどの程度劣っているものなんでしょう。
その辺の具体的な差を知りたい気もします。

「食ショック」は単行本も出ているようですね。
お正月の読書リストにでも追加しておこうと思います。

投稿: 本須 | 2009年12月10日 (木) 00時39分

久々に骨太なブログ記事を読んで
とても感銘を受けました。


どこからどこまでの場所を中華街と定義して
店舗数をカウントしたのか?
2006年と2009年での中華街の
定義は変わっていないのか?
是非とも、大学側の調査の
「中華街の定義」を確認したいところです。

投稿: CPH | 2009年12月10日 (木) 21時51分

★CPHさん

大学の調査も学生のバイトに適当にやらせているのかもしれません。

こういうものは、調査範囲や対象の定義を明確にしておかないと、
年によって大幅に内容が異なってしまうでしょうね。

料理店だけの調査だったら、今なら一人で2時間もあればできると思います。
メモしなくてもデジカメにドンドン収めてしまって後で画像を見ながら
まとめればいいのですから。
念のため、冗長性を持たせて3人くらいに全数調査をやらせて、
その日の晩に不整合が無いかを突き合わせ、次の日に不明点を
詰めてしまえばかなりの精度で調査は完了できるはず。

調査計画がまともなら、誤差は1~2店舗あるかどうかに収まると思います。

投稿: 本須 | 2009年12月10日 (木) 22時59分

ちなみに記者は、食べ終わって人造物だといわれるまで気がつかなかったそうです。
かく言う自分も・・・きっと気がつかない自信がありますw
比べるほど本物を食ってませんから・・w

投稿: maruto082 | 2009年12月17日 (木) 09時08分

★maruto082さん

キャビアなんかも人造物があるそうですが、
やろうと思えばもっと似せられるものを、
わざとほどほどの程度で出しているとか、
例の「食ショック」には出ていたようです。

人造物で文句が出るのは適正表示しなかった場合と、
似ても似つかぬほどまずかった場合ですね。
どちらにも抵触しないなら、それはそれでアリだと思います。

カニカマとかも安くて手頃で好きですしね。

投稿: 本須 | 2009年12月17日 (木) 17時45分

菅原一孝という人は、2009年5月に勤務先の大学で他の教員を殴って、暴力事件を起こしたことで有名です。TV,新聞にも出ました。被害を受けた教員は、陰部も攻撃されたそうです。町田署で検挙され、書類送検まで受けた人です。ところが、今もクビになっていません。本がインチキだとは、「やっぱりそういう人か」という印象です。よくデタラメを見抜きましたね。見抜く力がすごいです。

投稿: kanikama | 2010年9月10日 (金) 22時47分

★kanikamaさん

今回の私の記事は菅原氏の著書の方については
特に言及してませんのでご承知置き下さい。

事件の方ですが、私はテレビも新聞も見ないので全く知りませんでした。
というか、桜美林大学というものが存在すること自体、
件の新聞記事を見て初めて知ったと言ってもいいくらいです。

事件は1年以上前のようですので、新聞記事の検索で
見つけるのはちょっと難しそうですね。
裏が取れそうにないので私の方からはこの件についての言及は
控えたいと思います。

投稿: 本須 | 2010年9月11日 (土) 22時49分

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